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2015/01/18

救済魔人のRoots of Legends

●樹海の糸


生きる事に疲れた私は樹海に行った


街道がぎりぎり見えない位置まで森に入り込み
樹の幹に青いビニールロープを巻き付けた

ロープをするすると伸ばしながら森の奥にはいる

もしも、このロープが途中で切れれば
何処を見渡しても樹しか見えない森ではあっという間に迷子になるだろう

奥に奥にと進むうちに辺りはすっかり暗くなり
不気味に虫や鳥が鳴き叫ぶ

その鳴き声は「腹が減ってるんだ!さっさと死ね」と言ってる様に聞こえる

樹には藁人形が釘打ちされ
枝には首吊りロープが掛かってる

いよいよ冥福の入り口が見えてきたと感じた




そしてとうとう手持ちのロープが終わりを告げた




厚紙素材で出来た芯が足元にころがり

終わりを告げたビニールロープがビヨーンと

延ばしたゴムが元に戻る様に森の奥に消えていった




それでロープを見失った訳ではないが後戻りをするか私は考えた




生きて何になるのだろうか?

辛い苦しみを感じながら人々に迷惑をかけて

生への執着のロープが森を汚した




自分が生きる事で誰かを傷つけ苦しめる

自分が死ぬ事が生きてる人達への何よりの貢献だと感じた




私は命の青いロープが消えて行った暗闇と正反対の暗闇を突き進んだ




一歩、一歩と進むうちに死に近づき生から遠ざかる




もう、どれほど死に向かい歩いただろうか?

自分が何処から来て何処に向かってるのかすら判らなくなって歩くのを辞めた




もう歩く事に意味など無いからだ





自分が生まれて来た事にすら意味は無く

生きてきた事にすら意味は無く

意味無く私は死んでいく




無意味なものが無に帰るだけだ。




喉の渇きが酷くなるにつれて神への怒りが込み上げて来た




苦しみから逃れる為に死に向かって歩いた先で、また苦しむ

この苦しみから逃れる為には水を飲んで生きねば為らない




生きようとしても苦しく死のうとしても苦しい




永遠に逃れられない苦しみを感じる生命という体質に怒りを感じ

もっと大きな世の中の全てを創ってる、いい表す事すら出来ない全てに怒りを感じた




私は大声で叫んだ

涙を流しなら叫び散らした




そして立ち上がり歩いた




べつに今、自分が感じてる苦しみを晴らそうとか

自分の苦しんで生きてきた事を無意味なもののまま終わらせたくないとかって理由じゃない




もしも此処から生きてだられた先の事は何も考えてない




狂った様に私は森を歩いた




進んでるのか戻ってるのかも判らない




ただ我武者羅に歩いて歩いて

真っ暗な森に朝日が差し込んで、それが無性に美しかった




高い樹海の樹の葉っぱで拡散され

無数に闇に振りそそぐ光の柱の中に糸を見つけた




その糸が、この森にどれだけ存在していたのかは判らない

ボロボロのビニールは色をすっかりと無くし

太陽の光に照らされ金色に輝いていた




誰かが死ぬ為に張った糸なのか

生への未練から張った糸なのか判らない




ただ私は誰のものとも判らない苦しみの糸を握り締め

その糸をひたすら辿って進んだ




この糸を残した者が生きているのか死んでるのかすら私には判らない

ただ、確かなのは

その人のお陰で私は今、生きている。



●迷惑行為


都心部からちょいと外れにある小ぶりな街

最近に為って駅ビルが改築されたニュータウンの直ぐ脇にある巨大なコンクリート製の橋
遊歩道と車道が通っていて花壇が飾られてる

低コストで作る事を念頭におかれたのであろう芸術性の欠片も無い交通の為だけに存在する橋の上で
俺はフライングVを持ってコンクリートに咲く一輪の華の様に
強く逞しく生きるタンポポの様な曲を奏でていた

すると警察がやってきて俺の平和の歌を止めろと言って来やがった
俺はそいつに言ってやったぜ
「俺は誰にも迷惑かけてねぇ もしも迷惑してるて奴が居るてんなら此処に連れて来な!BOY」

すると警察官は俺にこう告げた
「私達は迷惑だと通報が有ったから音楽を止めに来たんだ!」

俺はすかさず言ってやったぜ
「だったら俺も通報するぜ!国家の番犬さんよ!俺に音楽を止めろと言ってる奴に迷惑してる!!いますぐソイツの口を閉じてくれ!!!」

目を丸くして絶句してる警察官に俺は語りかけた
「さーこれで音楽を止めろ!と主張する人と音楽を続けて良いて考える人の数は1対1だ!!アンタはどっちに付くんだい?まさか民主主義に反して俺を追っ払う気じゃないだろうな!!」

俺を取り囲む警察官は徐々に増えていき
いつのまにかオーディエンスは制服姿の警察官だけになった

誰も俺の音楽を聞いちゃいない
警察に取り囲まれてる俺を見て楽しんでる町人どもに無性に腹がたった

いま此処に集って俺の事を見ている連中は
音楽よりも面白そうな出来事を見たいだけの、どうしようもない物好きどもだ

こんな馬鹿どもに聞かせる歌を俺は持ち合わせていねぇ

俺は群集に叫んだ

「このクソ共が!!俺が苦しんでる姿を見て楽しんでやがるな!この暇人のマグソ野朗が!!とっとと失せな!!」

静まり返った群集の中から「音楽やめんのか!?」と声が聞えた
誰が発したとも判らない声に俺は叫んだ
「俺のビートを聞きてぇてのか?だったら歌ってやるぜ!!!」

俺はギターを振り回しながら触れる者は全て切り裂くような最高にファンキーな曲を熱唱した

「俺が歌うと決めた以上は何人たりとも止める事はできん!」

ついに歌い終えた俺を取り囲んでいた警官が俺言った
「人の迷惑を考えない野朗だぜ!」

俺は、そいつに言ってやった
「俺もアンタ達には迷惑したぜ?ほんの一瞬だけどなぁ!だが俺は自らの力で乗り越えたー!!」


そして拍手喝采の中で歌い終えた俺は群集に背を向け駅の方に歩いた
帰り際にオーディエンスに背を向けたまま振り向き俺は天にも届く声で叫んだ


「自分の願望を叶え様と他人に頼った奴とは気合が違うんだよ!!!!」



●警察に通報された救済間人


いつもの様に救済ライブを行った時に一人の少年が激昂しながら私に詰め寄った


「何が救済者だ!このアナキー野郎が!」


私に掴みかかってきた少年の眼差しは怒りの烈火に燃えており
私の顔面に彼の炎が飛び火した


私は黙って血を流しながら彼の炎を受け止め続けた


「黙ってないで答えろ屑!」


燃え上がる炎は、いづれ周囲を燃やしつくし消える
その事を知っていた私は、ただ黙って熱い痛みに耐え続けた


彼が殴り疲れ息切れをしながら落ちつきを取り戻した頃に
なぜ、ここまで怒りの炎が燃え上がったのか彼に尋ねた


話を聞くと彼は、私が世の中を破壊しようとしてる悪人でありながら
正義面して講釈を垂れてる事に我慢できなくなったと言うのだ


洗脳され私の信者に成ってる人達を救う為にも
悪の教祖である私を討ちに来たと言うのだ


彼の大儀を聞いた後に私は言った
「悪を正そうとする心は立派だが君は手段を間違えてる」


暴力で悪を討つ行為が悪であるからだ


真に正義の為に大儀を果たしたいのなら
暴力と言う手段で解決を図らず
別の方法で解決を図るべきだった


なおも怒りが収まらない彼は私に叫んだ
「だったらお前を警察に通報してやる!」


私は伝えた
「犯罪性が高いと感じるのなら国民として警察に通報する行為は立派だ
君は君の信じる正義を全うするがいい…」


警察署に連れていかれた私は取調べを受けたが
結局、法を犯している証拠は無く釈放された


警察署から出てきた私に人々は唾を吐きながら罵声を浴びせた


「証拠が無いから不起訴か・・・上手い事やりやがって!犯罪者が!!」



私は彼らを見て思った


彼らは正義の心を持った人達だ
正義の心があるが故に私を断罪しようとしているにすぎない


もしも私が処断され、それで彼らが正義の名の下に一つになり
今の世の中に平和が訪れるのなら私は悪として死のう


そして幾つもの時を越えて私は復活するだろう


後の人々が「救済魔人は正しかった」と再考したときに
私という概念が再来する

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